選書紹介 『意味の変容』(2) / 森敦
本日のでこぼこ選書は、
前回に引き続き『意味の変容』です。前回は本書を読み終えることができず、本書に関するコラムの執筆を先延ばしにしていたのですが、ついに読み終えたのでコラムを書いていきたいと思います。
と言っても、よく分からない所がとてもたくさんありましたが・・・(笑)。
どんな本なのか
残念ながらこの本を一言で紹介することは今の自分にはできません。力量不足ですみません(涙)
なぜならこの本は一見、著者である森敦さんの自伝小説のような体として読めるのですが(実際、作者のこれまでの人生で得てきた体験からご本人の考えが述べられています)、単なる伝記的なものとして捉えるには、いささか的外れな気もするからです。
というのも、本書は数学的な知識を軸に、工学的・光学的な知識、論理学や宗教学、歴史学、文学的な観点からも書かれており、学術的・芸術的な香りも一方でしてくるからです。
そのため、本書は単なる自伝小説のような側面としてだけでなく、学問的な色彩も同時に帯びているため、なかなか一言でこの本を言い表すのが難しいのです。特にジャンル分けは非常に困難な印象です。
しかもやっぱり本書のテーマ自体も少しボヤっとしている気もして(このボヤっとしている正体も寓話を用いた比喩表現が多いのが一因かもしれません)、読みにくい・分かりにくい感じがします。
しかし、タイトルである「意味の変容」ということを考えると、数学的な考え方が根底にありながらも、この「分かりにくさ」が、むしろ読み手が任意に意味を考え、捉え、そして構築し変容させていくのを可能とする「ゆらぎ」を生み出しているのではないかとさえ思い始めました。分かりにくさ最高!(笑)
そして今一度、「この本は何なのか?」と自問自答してみると、恐らく、筆者の「人生哲学」を数学的発想を基にしながらも、判然としない形(物語としても哲学的な思想としてもあまりまとまっていない形)で、哲学的エッセンスを散りばめている本、ということになるのかなと感じました。哲学書でもあり、思想書でもあり、数学書でもあり、小説でもあり・・・みたいな感じです。
しかし判然としない形と言っても、繰り返しにはなりますが、確かに表面的に述べられている内容自体には、あまりつながりやまとまりがあるようには思えないのですが、世界を捉える際のその根本的な発想の部分では一貫した哲学的基盤のようなものはあるように感じます。
要するに、考える対象やテーマは違えど、「物事を捉え、考えるための手段」としては同じ方法で思考を推し進め、かつ、抽象度は異なれど同じような結論を導き出しているように思いました。
多分実際に読んでいただければ、私が何を言いたいのかきっと分かってくださるかと思います(笑)。
ということで、やや強引ではありますが、これから本書を読むかもしれないそこのあなたのために、以下、本書でキーワードとして使われているであろう語句を独断と偏見でご紹介します。
本書で用いられているキーワード
ぜひ本書を読む際は、以下のワードが何を意味しようとしているのか意識しながら読み進めて頂けると多少読みやすくなるのかなと思います。私自身もそれぞれの語句の意味やイメージを本書の視点をヒントに考えながら読みました。読み物としての面白みが減ると困るので、ここでは私の解釈は控えて、キーワードのみご紹介したいと思います。
・「近傍」
・「内部」
・「外部」
・「全体概念」
・「境界」
・「幻術」
・「現実」
・「実現」
・「時間と空間」
・「矛盾と実存」
どのキーワードも難しそうですが読み進めてみると何となく分かった気にはなれます。
ちなみに私は本を読む時は必ず、「目次」に目を通して目次のタイトルから何となく内容を推測してから読み始めるのが通例となっているのですが、この本の目次は内容の展開をほとんど予想できない意味不明な感じでしたので併せてご紹介してみたいと思います。(笑)
本書の目次
・「寓話の実現」
・「死者の目」
・「宇宙の樹」
・「アルカディヤ」
・「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」
・「意味の変容 覚書」
この目次のタイトルからどんな話の内容になるのか予想できる方がいたら是非教えてください!ある程度基礎知識も必要ですし、多くの人にとってはきっと意味不明だし、ちょっと怪しい話なんじゃないかという向きさえあるかもしれませんね・・・(笑)。
所感①
本書を読んでみての所感は、やっぱり「ムズい!」です。
ただ難しいと言っても色々な種類があると思います。
例えば、「勉強中にある問題を解いている状況」でたとえてみると、
- ある知識を知らないから問題が解けなくて難しい!
- ある知識は知っているけど使い方(知識の組み合わせ方)を知らずに問題が解けなくて難しい!
- ある知識の存在は知っていてもそれ自体の内容が高度でそもそも理解できなくて難しい!
- 一つ一つの知識が高度でかつそれらを組み合わせて使わなければいけなくて難しい!
- ある問題の意図(どんな知識が問われているのか)がそもそも分からなくて難しい!
みたいな分類が(恣意的に)できるかと思います。
で、本書で言うと、多分cとdとeに当てはまる気がします。
上述したキーワードに対するそれぞれの理解も結構大変で(合っているのかも不明です)、それでいてそれらを組み合わせながら読み進めないといけない。そしてこの人は、どんな問題意識でこのようなことを考え一つの答えを出そうとされているのか、ということが私にはいまいちピンとこず、なかなか骨が折れます。
そもそも上記のような視点から本書を解釈しようとするだけでは捉えられるものも捉えきれないのかもしれませんね・・・。
だって問題意識なんて無かったのかもしれないですし。
ちなみに本書は、筆者がこれまで働いてきた「光学工場」「ダム会社」「印刷会社」という業種も会社の規模も全く異なる所を舞台に、それぞれの中で得てきた事柄について上述のキーワードを用いて何がしかを伝えてくれています。でも何を伝えてくれているのかは何となくは分かっても、本当の意味ではよくわかりません。。。(笑)
あ~、ご本人に直接質問してみたい・・・。
所感②
でも、全体を読んでみて、なぜか筆者の世界の捉え方や生き様には、人間としての生々しさ、リアリティがある気もしました。「生きる」ということ、「考える」ということを筆者の人生そのものから訴えかけてくれている、そんな感じがします。
きっとこの文章を読んで筆者の生き様から「励まし」や「生きる希望」を見出す人は必ずどこかにはいるんだろうな、という雰囲気を後になって一身に浴びた感覚がじわじわと出てきました。
そして最後に、この本を読んでみて私自身が得たであろうものが確実に1つはあります。
それは、「謎」です。
ん?? 謎???
自分では分からない、自分には理解できない、しかしよくは分からないけども、誰かにとっては確かに存在している「何か」がそこにある、ということをしっかりと教えてくれた気がします。
得体の知れない何かが、源泉のように地下深くから光を目指して少しずつ少しずつ、上へ上へと溢れ出てくるような感じがします。
もっとこの本を上手く表現できる方がいれば、是非お話を伺って意見交換してみたい気もしますが、読了後のこのスッキリしない感じもまたオモシロイなと思っている所です。
でも、分からないことがあるって幸せです。(笑)
生きてるって感じ。
自分を、世界を、自分自身のコトバで表現しようとされているのは理屈抜きに生き様感があってカッコイイですからね。
しかもきっとそういうプロセスの中で色々なことが意図的かどうかに関わらず、磨かれ変化していっている側面はあるんだろうなと思います。
現状維持が大好きな自分としてはちょっとだけ見習わないといけないですね。
あとで振り返った時に心身ともに成長できているよう、肩の力を抜きながらも、結果的に変わっていった、というようなことをこれからも少しずつ無理なく積み重ねていこう、という事をここでこっそりと誓いたいと思います。
前回のコラムを書いた時とは全く異なる感覚と印象を本書に抱きながら、本書の最終部の一部を引用して本コラムを終えたいと思います。
現実はつねに実現たろうとするように、実現はつねに現実たろうとし、
かくしてこそわたしはこの存在において、
実存するところのもとなる。
『意味の変容』、森敦、ちくま文庫、2005、p90.
紹介者:熊谷
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